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福岡高等裁判所 昭和27年(ネ)499号 判決

一審原告 木村仁平

一審被告 中島茂八

一審参加人(当事者参加人) 株式会社 玉藻組

主文

(一)  原判決を左のとおり変更する。

(二)(イ)  一審被告は別紙〈省略〉目録第二記載物件が一審原告の所有であることを確認し、一審原告に対し右物件につき昭和十八年八月六日付売買に因る所有権移転登記手続をなし、且これが引渡をなせ。

(ロ)  一審被告は同目録第三記載物件が一審原告の所有であることを確認し、一審原告に対し右物件につき熊本区裁判所昭和二十一年六月一七日受付第二、六九二号を以てなされた昭和十八年八月六日付売買に因る所有権移転の仮登記に対する本登記手続をなし、且これが引渡をなせ。

(ハ)  一審原告のその余の請求はこれを棄却する。

(三)(イ)  一審被告は別紙目録第二、第三、第四記載物件が一審参加人の所有であることを確認し、一審参加人に対し、これが引渡をなせ。

(ロ)  一審参加人と一審原告との関係において、右第四記載物件は一審参加人の所有であることを確認する。

(ハ)  一審参加人の一審原告に対するその余の請求はこれを棄却する。

(四)  訴訟費用は第一、二審を通じ、一審原告と一審被告との間に生じた分はこれを五分しその三を一審原告その二を一審被告の各負担とし、一審参加人と一審被告との間に生じた分は全部一審被告の負担とし、一審参加人と一審原告との間に生じた分は全部一審参加人の負担とする。

事実

一審原告訴訟代理人は、「(一)原判決を次のとおり変更する、(二)一審被告は別紙目録第一乃至第四記載物件が一審原告の所有であることを確認せよ、(三)一審被告は一審原告に対し右第一、第二、第四記載物件について昭和十八年八月六日付売買に因る所有権移転登記手続をなし且該物件を引渡せ、(四)一審被告は一審原告に対し右第三記載物件について熊本区裁判所昭和二十一年六月十七日受付第二、六九二号を以てなされた昭和十八年八月六日付売買に因る所有権移転請求権保全の仮登記に対する本登記手続をなし且該物件を引渡せ、(五)訴訟費用は第一、二審とも一審被告の負担とする」との判決を求め、一審被告及び一審参加人の各控訴に対しいずれも控訴棄却の判決を求め、なお、一審参加人の後記変更に係る請求に対してはこれが棄却(但し第四項については却下)の判決を求め、

一審参加人訴訟代理人は、「(一)原判決を左のとおり変更する、(二)一審原告及び一審被告は別紙第二、第三、第四記載物件が一審参加人の所有であることを確認せよ、(三)一審被告は一審参加人に対し右第二、第三、第四記載物件を引渡せ、(四)一審原告は一審参加人に対し右第三、第四記載物件について昭和二十一年六月十七日熊本区裁判所受付第二、六九二号を以てなされた昭和十八年八月六日付売買に因る所有権移転の仮登記の抹消登記手続をせよ、(五)訴訟費用は第一、二審とも一審原告及び一審被告の負担とする」との判決並びに右第三項については担保を条件とする仮執行の宣言を求め、一審原告及び一審被告の各控訴はいずれもこれを棄却するとの判決を求め、

一審被告訴訟代理人は、一審原告及び一審参加人の各控訴は、いずれもこれが棄却の判決を求め、なお一審原告及び一審参加人の各変更に係る請求はいずれもこれを棄却するとの判決を求めた。

事実関係について、各当事者の主張は、

一審原告訴訟代理人において、

(一)  原判決摘示事実中原判決書三枚表一行目の「損害金を控除して残金を支払う」の次に「こと残金二万円は立退終了と同時に支払う」の文句を挿入する。

(二)  一審被告の後記(三)の主張に対し、その主張の如き解除権留保の特約の存する点は否認するも、その主張のように訴外柳瀬卓三から昭和二十年十二月二十八日解除の意思表示があり、次で昭和二十八年四月二十八日五万円の為替証書が一審原告に送付されたがこれが受領を拒絶したので、同人が同年五月十八日五万円を弁済供託し、その供託書が同月二十八日一審原告に送達せられたことは認める。

(三)  一審参加人は別紙目録第一、第二、第三記載物件について昭和二十一年二月二十八日一審被告から買受けたとしてこれが所有権取得の登記を了している。しかしながら、これより先今次終戦前である昭和十八年八月六日一審原告は一審被告から売買に因り同目録記載物件を含めて右第一、第二、第三記載物件の所有権を取得していたものであるが、該物件になされてあつた抵当権設定登記、滞納税金のための差押登記等の抹消手続の遅延のためと、物件の一部に登記簿上の表示と台帳面の表示とが一致しないものがあつたため所有権移転登記未了のまま終戦となつたところ、一審参加人は、終戦直後貨幣価値の下落、物価の高騰、現金の封鎖等のことがあつたのを奇貨措くべしとなし、一審被告を使嗾して一審原告と一審被告との間では既に売買代金の授受を了し移転登記を残すのみとなつている事実を知悉しながら、一審原告の右物件についての登記請求権を故意に妨害して一審被告からこれを買受け所有権移転登記をなしたものであつて、その行為は信義誠実を無視したる不徳義極まるものである。従つて、一審参加人と一審被告間の右売買は巷間通常行われている単なる不動産の二重売買とは全くその趣を異にしている。大体、不動産登記法第四条には、詐欺又は強迫に因つて登記の申請を妨げた第三者は登記の欠缺を主張することを得ないと規定しているが、これは文字どおり詐欺又は強迫に該当しなくとも甚だしく信義に反する方法で登記そのものを妨げるとか、自らその物権変動に関与して利益を得ているとかの理由で、その登記の欠缺を主張することが甚だしく信義に反する場合にはその適用ありとすべきは当然の理である。一審参加人の所為は単なる悪意というだけでなく一審被告を使嗾して自ら利得せんがため一審原告の登記請求権を妨げて自らその取得登記をしたのであるから、当然右の法条に照し一審原告に対し登記の欠缺を主張する正当の利益を有しないものである。又一方一審参加人の所為は一審被告と共謀して一審原告に対して不法行為をなしたものであるから、かかる不法行為者たる一審参加人は一審原告に対し登記の欠缺を主張するについての正当の利益を有する第三者でないことも当然の理である。

(四)  一審参加人は前記第一記載物件について所有権取得の仮登記や本登記をなしているが、該本登記は一審原告の申請によつて昭和二十一年六月三日なされた処分禁止の仮処分の登記後になされたものであるから一審原告に対抗することができない。よつて、一審被告は一審原告に対し右第一記載物件について昭和十八年八月六日付売買に因る所有権移転登記手続をなすべき義務がある。

(五)  前記第三記載物件に対しては、一審原告において態本区裁判所昭和二十一年六月十七日受付第二、六九二号を以て昭和十八年八月六日付売買に因る所有権移転請求権保全の仮登記をなしているから本訴においてこれが本登記手続を求める。

(六)  一審参加人は、前記第二記載物件に対し昭和二十八年五月二十八日又前記第三記載物件に対し同年六月九日いずれも昭和二十一年二月二十八日付売買に因る所有権移転登記を了したことを理由に一審原告に対し右各物件が一審参加人の所有であることの確認を求めるけれども、一審原告は、これより先、右第二物件に対しては昭和二十一年六月三日処分禁止の仮処分の登記をなし又右第三記載物件に対しては前記のように所有権移転請求権保全の仮登記をなし且同年六月二十九日処分禁止の仮処分の登記をなしており、右各登記の原因はいずれも昭和十八年八月六日付売買であつて、該売買は有効に成立せるものであるから、一審参加人が右仮処分の登記や仮登記以後、特に一審判決の言渡後において、一審被告と共謀してなしたと推認される如き前記所有権移転登記をなすも、右仮処分や仮登記の権利者である一審原告に対する関係においてはその効力がない。一審参加人は仮処分前の原因に基く登記は仮処分権利者に対しても有効であると主張するが、かくては、不動産の処分禁止の仮処分の効果を殆んど絶無に帰せしめるに至るであろう。売買もこれによる所有権取得の登記を具備して始めて完全なる一個の処分と考うべきものであるから、たとえ、仮処分前の売買契約に基く登記であつても、仮処分登記の後になされたものは仮処分の対象となるべきものと考うべきである。

なお前記第四記載物件については一審参加人において所有権取得の登記をなせることは否認する。

(七)  一審参加人の請求の趣旨第四項の請求は、一審原告に対する新な請求であり且一審参加人が第一審において全然請求しなかつたことに属するので、新訴を起すは格別、訴の変更に追加してなすことを得ないものであるから、当然却下せらるべきものである。

と述べ、

一審被告訴訟代理人において、

(一)  原審における昭和二十三年五月四日の口頭弁論調書には一審被告が「被告は柳瀬卓三に法律行為に関する代理権を甲第二号証の通り授与し……」述べた旨記載あるも、右は「被告は柳瀬卓三に甲第二号証の委任状と題する書面を交付したことは認めるが、原告主張の如き法律行為に関する代理権を授与したことは認めない」との趣旨に陳述したものである。従つて、原判決の事実摘示中に「被告が訴外柳瀬卓三に対し本件物件の売買につき代理権を授与したことは認める」とあるは、(原判決書三枚裏十一及び十二行目)一審被告の主張と相違しているものであつて、事実は右補正陳述のとおりである。

(二)  甲第二号証は委任状と題するも、一審被告と柳瀬卓三との間になされた債務整理を目的とし而して物件を売却する場合は柳瀬を必ず通じてなすべく、他に依頼せざることを条件とする一種の契約書であり、特定の一審原告に売却する権限を同人に授与したものではない。この事実は、当時の実情、動機、実験則上明らかである。

(三)  甲第三号証附属特約書において、一審被告が売買に同意せず所有権移転登記を拒絶する場合等を予想し、その第六項において損害金並びに違約金として金五万円を柳瀬から支払う義務を負うことによつて解除し得べく解除権を留保しあるが、柳瀬は昭和二十年十二月二十八日一審原告に対し契約解除の意思表示をなし昭和二十八年四月二十八日五万円の普通為替証書を一審原告に送付したけれども受領拒絶返戻を受けたので、同年五月十八日金五万円を弁済供託し、該供託書は同月二十八日一審原告に送付した。それで、本件売買契約は完全に解除せられ一審原告には本件物件について何等の請求権なきに帰したものである。

と述べ、

一審参加人訴訟代理人において、

(一)  一審参加人は別紙目録第二記載物件について昭和二十八年五月二十八日、同目録第三記載物件について同年六月九日、同目録第四記載物件について昭和二十九年九月三日いずれも昭和二十一年二月二十八日付売買に因る所有権移転登記を了したので、一審原告に対し、これが所有権を対抗し得ること明らかである。

(二)  一審原告が右第三記載物件について昭和二十一年六月十七日熊本区裁判所の仮登記仮処分命令により同区裁判所受付第二、六九二号を以て昭和十八年八月六日付売買に因る所有権移転の仮登記をなしていることは認めるが、この仮登記が一審原告主張のように、所有権移転請求権保全の仮登記であることは否認する。而して、右所有権移転の仮登記は左記の理由によつて一審参加人に対しては何等の効力がない。すなわち、(イ)一審原告のなした仮登記仮処分命令申請は、一審原告が本件訴訟において証拠として提出した甲第一号証契約書、同第二号証委任状、同第三号証附属特約書、同第四号証の一乃至三各領収書を疏明資料となされているが、右甲号証の趣旨が一審原告一審被告間の直接の売買を証するものではなく、訴外柳瀬卓三が一審被告所有の右物件について、いわゆる他人の物の売買をなしたものであることは同号証自体によつて明らかである。従つて、一審原告が仮登記仮処分命令により昭和十八年八月六日所有権移転を完了したとしてこれが仮登記をなすも、その効力を生じないことは明白である。(ロ)一審原告が右仮登記仮処分を申請してこれが登記を了した昭和二十一年六月十七日までに前記第三記載物件の所有権が一審原告に移転した事実はない。前記甲第一号証契約書第二項によるも訴外柳瀬卓三は元井芹銀行等全部の担保権設定登記や滞納税金の差押登記等を完全に抹消して売渡すことを受託しているに過ぎないし、その第五項において代金受領後二ケ月以内に全物件を引渡しこれが登記をなすことを約しているけれども、前記甲第三号証附属特約書によるとその引渡及び登記の時期を一応昭和十九年六月三十日までに延期、更に期日が延期され得ることはその第二項、第四項によつて明らかである。特に、その第七項において本件物件の処分につき公売又は競売をなす場合において、一審原告の参加を煩わすことありたるときは直ちにその協力を得ることを約し、前記の担保権並びに税金等の負担から公売又は競売の方法を以て本件物件の担保を排除して無疵のものとして売渡すことを約しているのであるから、本件物件の所有権が甲第一号証契約書成立と同時に移転したとは認められない。更に又甲第三号証附属特約書の第五項によると残代金二万円の存していることも明らかであるから、所有権が完全に移転したものとして一審原告が前記のように条件不備の仮登記をなすも所有権取得の登記をなした一審参加人に対しては何等の効力もない。(ハ)且又一審被告主張のとおり前記甲第一及び第三号証の契約は昭和二十年十二月二十八日解除されたものであるから当然一審原告は所有権なくして仮登記をなしたものである故その効力を有しないことは明らかである。

(三)  一審原告はその主張の如く、前記第二記載物件については昭和二十一年六月三日又第三記載物件については同年六月二十九日処分禁止の仮処分命令を得てこれが登記をなしているけれども、本登記のなされない限り一審参加人に対し何等効力がないのみならず、一審参加人は右仮処分の登記前たる昭和二十一年二月二十八日一審被告から右物件を買受け代金も完済してその所有権を取得し、而してこれに基き右物件について前記の如くそれぞれの所有権取得の登記をなすに至つたのであるから、右仮処分は一審参加人に対しては何等の効力がない。なお、前記第一記載物件について、一審参加人が一審原告主張の如く所有権取得の仮登記や本登記をなしたことは認める。そして同物件について一審原告主張の如く処分禁止の仮処分のあつたことも相違ないけれども、右と同様の理由によつて右仮処分は一審参加人に対してはその効力がない。

(四)  一審参加人は本件物件を一審被告から善意にて買受けたものであつて、一審原告主張の前記(三)の事実は前記第一、第二、第三記載物件についてその主張の如き所有権取得登記完了の点を除きこれを否認する。前述のように一審原告は本件物件について直接一審被告との間に売買契約を結んだものではなく、訴外柳瀬卓三との間に一審被告所有の本件物件についていわゆる他人の物の売買契約を締結したものであるから、これによつて本件物件の所有権が直接直ちに一審被告から一審原告に移転したとは考えられない。且又右柳瀬において一審原告に対し右契約を解除した以上一審原告は一審参加人が本件物件の所有権を取得したことについて異議を述べ得べき限りではない。一審参加人は本件物件を善意にて買受け一審原告の仮登記並びに仮処分等の法律上の手段に対抗しているに過ぎない。本件物件について一審参加人が所有権移転登記をなしたことは何等一審原告の登記申請を妨げたものではなく自己の権利を行使したに過ぎない。従つて一審参加人は一審原告に対し何等不法行為をなしたものでもない。

と述べた外は、原判決の事実摘示と同一であるから、これを引用する。

〈立証省略〉

理由

まず一審原告の請求の当否について検討する。

成立に争いのない甲第二号証、原審証人柳瀬卓三の証言(一回)によつて、その成立を認め得る甲第一、第三号証、第四号証の一、二、三及び原審並びに当審証人柳瀬卓三(原審は一、二回、但し後記措信しない部分を除く)堀平、松浦与志太郎(当審は一、二回)中村静雄の各証言、並びに原審における一審原告本人尋問の結果を綜合すれば、一審原告は、一審被告の代理人たる訴外柳瀬卓三との間に昭和十八年八月六日一審被告所有の別紙目録第一乃至第四記載物件を買受ける旨の契約を締結した。而して、該売買契約の内容は、代金十五万円で内金五万円を一審原告において即日支払いその余を同年十二月二十日までに支払うべく、一審被告は契約締結後直ちに右売却物件につき抵当権設定登記の抹消及び租税滞納処分による差押の解除の手続に着手し、代金完済後二ケ月以内にこれを完了した上、一審原告に所有権移転の登記をなし、且その引渡をなすべき旨の約定であつた。それで、一審原告は一審被告に即日内金五万円を支払い、その後一審被告の要請により同年十二月十八日更に代金内金六万円を支払つたが、一審被告が右約定どおり抵当権設定登記の抹消及び滞納処分による差押の解除の手続に着手しなかつたので、一審原告も残代金の支払を見合わせ、右売買契約の履行は荏苒遷延して来たが、一審原告は遂に昭和十九年五月三十日その代理人たる訴外松浦与志太郎を介して一審被告の代理人たる前示柳瀬卓三と折衝し、同人との間に前記売買契約の履行を促進するため追加契約を締結し、即日更に代金の内入として金二万円を支払うとともに、一審被告は同年六月三十日までに前記売買物件の引渡並びにこれが所有権移転登記手続を完了すべく、若し該期限を徒過したときは一審原告が既に支払つた代金内金に対しては右期限の翌日から金百円につき一日金二銭の割合による損害金を支払うこと。なを、一審被告は同年七月末日までに売却家屋からこれに居住せる者を移転立退かせるべく、若し該期限を徒過したときは前記内金に対し右期限の翌日から更に同率の損害金を支払うこと。そして、以上各損害金を生ずるに至つたときは残代金二万円はこれから右損害金を控除した残額のみを支払えば足るのみならず、この残額は右居住者の立退終了と同時に支払うこと等を約したことを認めることができる。

これに対し一審被告及び一審参加人は、一審被告においては前示柳瀬卓三に対し本件物件を一審原告に売渡すべき代理権限を授与したことはない。すなわち、一審被告が右柳瀬に与えた甲第二号証の委任状は、単に一審被告がその財産整理を同人に委任したことの資格を証するために交付せられたもので、右財産整理のため財産を処分することを直接委任したものではない。同人がかかる具体的行為をなすについては、その都度個別的に更に一審被告の委任を要する約旨であつた。そして、柳瀬は、右のように本件物件の売買について一審被告を代理する権限がなかつたので、一審原告と本件物件の売買契約をなすにあたつては、その契約書たる甲第一号証又その追加契約書たる甲第三号証により明らかなように、一審被告の代理資格を表示することなく自らが契約当事者となつて一審被告所有の本件物件を一審原告に売渡しの契約をなしたものである。つまり、柳瀬は、一審被告所有の本件物件について一審原告といわゆる他人の物の売買契約を締結したものに外ならないのであつて、このことは、右甲第一、第三号証の契約条項によるも明らかであると主張する。しかしながら、右主張事実に添い、前記認定に反する原審並びに当審における証人柳瀬卓三の証言(原審は一、二回)一審被告本人尋問の結果及び丙第四号証(別件証人柳瀬卓三の尋問調書)の記載はたやすく措信し難い。而して、甲第二号証の委任状はその記載自体に徴し一審被告がその所有の本件物件の売買につき前示柳瀬卓三に対しこれが所有権移転登記手続の終了に至るまでの一切の代理権限を授与したことを証する書面たること明らかであつて、一審被告及び一審参加人主張の如く、単に財産整理を委任したことの資格を証するためのものに止まるものとは到底認められない。そして、右委任状が一審原告との間の本件物件の売買契約当時、既に一審被告から柳瀬卓三に交付せられていたことは弁論の全趣旨に徴し当事者間に争のないところであるから、同人が当時一審被告を代理して本件物件を売却する権限を有していたことはいうまでもないことである。しかるに、甲第一号証本件売買契約書及び甲第三号証附属特約書には、柳瀬卓三が一審被告の代理資格を表示することなく、自ら契約当事者であるかの如くなつていて、この形式やその記載契約条項の文言の点からだけ見るときは、一審被告及び一審参加人主張の如く或いは柳瀬が一審被告所有の本件物件について一審原告との間にいわゆる他人の物の売買契約及びこれが追加契約を締結したものではないかとの疑を生ぜしめる余地がない訳ではないけれども、同号証を前記引用の各証拠と綜合して考えるときは、前認定の如く、柳瀬が一審被告を代理して得べき前記権限に基いて一審原告と本件物件の売買契約及びこれが追加契約を締結したものと認められないものはなく、むしろ、かく認めるのを相当とするのであつて、右甲第一、第三号証の形式や契約条項の文言の点は未だ該認定を妨ぐべき程度のものとは認められないので、一審被告及び一審参加人の右主張は採用し難い。又一審被告及び一審参加人は前示柳瀬卓三が前記売買契約の締結にあたつて、一審被告のためのみならず、一審原告のためにも代理人となり、いわゆる双方を代理したものであるから、該契約は無効であると争うけれども、この点に関する証拠として挙示せらるる甲第一号証契約書の第二条は前顕堀、松浦証人の各証言を参酌して考うれば、それは、前記売買契約締結につき一審原告が柳瀬卓三に対し代理権を授与した趣旨ではなく、該売買契約締結後所有権移転登記申請手続等単に右契約の履行に際し当然随伴する事実上の事務処理を依頼したに過ぎないものであることを看取し得るところであつて、その他にはこれを肯認し得べき何等の証拠も存しないので、この点の主張も採用するに由がない。

次に、一審被告は前記売買契約の目的物件中家屋四棟が一審被告の住居として除外せられていた旨主張するけれども、前記認定に反しこの主張事実に添う原審証人岩竹三郎及び中島茂吉の各証言は措信し難く、他にこれを認めるに足る証拠は存しない。

更に、一審被告及び一審参加人は、前記のいわゆる追加契約当時には一審被告の柳瀬卓三に対する前記売買契約に関する委任は解除せられていた旨主張するけれども、この点に関する原審証人柳瀬卓三の第一回証言及び当審における一審被告本人尋問の結果は、右証人の原審における第二回証言に照し措信し難く他にこれを認むべき証拠は存しない。なお、一審被告が昭和二十年十二月二十日書面を以て柳瀬卓三に対する右委任を解除する旨の通告を同人宛になしたことは右柳瀬証人の第二回証言及び同証言によつてその成立を認め得る乙第四号証によつて、これを認め得るけれども、その解除の効力は単に将来に向つてのみ発生し、既に締結せられた前記売買契約及びその追加契約の効力には何等の消長をも来すものでないことは論を俟たないところである。又、一審被告及び一審参加人は、前記売買契約及びその追加契約はその後解除せられたと主張するが、その主張するところは、甲第三号証のいわゆる追加契約をなすにあたつて、一審被告が売買契約に同意せず所有権移転登記を拒絶する場合等を予想しその第六項において留保した解除権に基き前示柳瀬卓三において契約を解除したというにあるけれども、右売買契約及びこれが追加契約は前認定の如く柳瀬が当事者として締結したものではなく、一審被告の代理人として締結したものであるから、その締結後に至つて同人において一審被告の代理人としてではなくして該契約の解除又は解約をなし得べき限りでないことはいうまでもないことである。そして、一審被告及び一審参加人の主張が右解除は柳瀬において一審被告の代理人としてこれをなしたものであるというのであつても、該解除のなされたのが右甲第三号証附属特約書第六項に定められた、余儀なき事情等発生したため本件売買契約の目的を達し得ざる場合であつたことについては、これを首肯せしむるに足るべき事情の立証がないから、同項の約定に基く解除権は発生しなかつたものといわざるを得ないので、右主張もその理由がない。

さすれば、一審原告は、前記売買契約及びこれが追加契約の約旨に従い、一審被告に対する関係において、別紙目録第一乃至第四記載物件の所有権を取得したものといわねばならない。

しかるところ、その後、後記認定の如く昭和二十一年二月二十八日一審被告が一審参加人に対し右第一乃至第四記載の本件物件全部を売渡したのであるから、本件物件は一審被告から一審原告と一審参加人とに、いわゆる二重に売買せられたものというべきところ、右第一記載物件については昭和二十一年六月五日、第二記載物件については昭和二十八年五月二十八日、第三記載物件については同年六月九日いずれも一審被告から一審参加人に対する昭和二十一年二月二十八日付売買に因る所有権移転登記がなされたことは弁論の全趣旨に徴し当事者間に争のないところであつて、右第四記載物件については成立に争のない丙第六号証の記載により昭和二十九年九月三日同じく一審被告から一審参加人に所有権移転登記がなされたことを認めることができる。なお、右第二記載物件中売買当時の公簿上畑地として表示せられていた土地が現況としては悉く宅地となつていたことは当事者間に争のないところである。

この点について、一審原告は、一審参加人の本件物件の買受け及び所有権取得登記は信義誠実を無視した不徳義極まるもので、不動産のいわゆる二重売買とは趣を異にするのみならず、不動産登記法第四条の精神に照すも、又一審参加人が一審被告と共謀して一審原告に対し不法行為をなした点からいつても、一審参加人は一審原告の本件物件の買受け取得について登記の欠缺を主張し得べき第三者に該当しないと主張するので考えるに、当審証人藤本慶一、松浦与志太郎、中村静雄、及び堀平の各証言によれば、一審参加人が本件物件を一審被告から買受けるにあたつて、一審原告が既に前記のようにこれについて売買契約を締結していたことを知つていたことはこれを認められないではないけれども、一審原告の本件における立証の程度では、それ以上に一審参加人が詐欺、強迫その他取引の通念に照し非難せらるべき所為によつて一審原告と一審被告間の右売買契約の履行乃至登記手続の完了を妨げた事実はこれを認められないので、右のように単に先売買の事実を知つて更に同一不動産を後に買受けたという一事によつて、後の売買を巷間普通に行われる不動産のいわゆる二重売買ではないとしてその効力を否定することはできないものというべく、従つて、一審参加人は後の買受人ではあるが本件物件について所有権取得の登記をなしたことは前認定のとおりであるから、他に特段の事由のない限り完全に右物件の所有権を取得し、先の買受人たる一審原告はその所有権取得を以て一審参加人に対抗することができないのは当然のことであつて、これを不法行為を以て目すべき限りでもないから一審原告の右主張は採用し難い。

しかしながら、前記第三記載物件については、成立に争のない甲第六号証及び第九号証の一、二によれば、一審原告の申請による熊本区裁判所の仮登記仮処分命令により同区裁判所昭和二十一年六月十七日受付第二、六九二号を以て昭和十八年八月六日付売買に因る所有権移転の仮登記のなされていることが明らかである。(一審原告はこの仮登記は所有権移転請求権保全の仮登記であるというが、右甲第六号証仮登記仮処分命令、甲第九号証の一、二登記簿抄本によれば、しからずして、矢張り所有権移転の仮登記であること明白である。)一審参加人は、右仮登記は、一審原告に右物件の所有権移転の事実がないのになされたものであるからその効力がないというけれども、一審原告が前記売買契約及びその追加契約の約旨に従つて一審被告に対する関係において本件第一乃至第四記載物件の所有権を取得したことは既に認定したとおりであつて、すなわち、前認定の如く、いわゆる追加契約によつて一審被告は一審原告に対し本件売買物件の引渡及び所有権移転登記は昭和十九年六月三十日までになすべく、一審原告の一審被告に対して支払うべき残代金二万円は右物件中の家屋からその居住者の立退終了と同時に支払えば足る約定であるから、右物件の引渡及びその所有権移転登記は残代金の支払とは関係なく、たとえその完済なくとも右期日までにはこれをなすべき趣旨の特約であることが明らかである。従つて一審原告と一審被告間の前記売買においては残代金二万円の支払の有無に拘らず本件物件の所有権は右約定の物件の引渡及び所有権移転登記をなすべき昭和十九年六月三十日にはこれを一審被告から一審原告に移転せしめる当事者の意思であつたと認めるのを相当とする。それで、前記仮登記のなされた昭和二十一年六月十七日当時には既に前記第三記載の物件についてもその所有権は一審被告から一審原告に移転していたのであるから右所有権移転の仮登記の有効であることは論を俟たない。してみれば、右第三記載の物件については前記のように、その後一審参加人のため所有権取得登記のなされているに拘らず、なお、一審原告は一審被告に対し右仮登記に対する本登記手続を求め得べきことは、後日登記のなされた場合にその順位を仮登記の日に遡つて保全せしめんとする仮登記制度の趣旨に徴し疑のないところである。

次に、成立に争のない甲第七号証の一乃至三十四、第八号証の一乃至十一、第九号証の一、二、第十一、第十二号証によれば前記第一、第二記載物件については(但し第一記載物件中熊本市二本木町字車屋敷五十三番山林一畝十七歩及び同所五十四番山林二十九歩の二筆の土地を除く――この二筆の土地については仮処分の登記がない)昭和二十一年六月三日前記第三記載物件については同年同月二十八日いずれも一審原告の申請により一審被告に対し売買贈与その他一切の処分をなすことを禁止する旨の仮処分命令があり、前者については命令の発せられた日に、後者については命令の発せられた日の翌二十九日に、それぞれ、その旨の登記がなされていることを認めることができる。このように、債務者の処分を禁止する仮処分命令は将来の処分行為を禁止するに止まつて、その命令以前になされた行為の効力に何等の影響を及ぼさないことはいうまでもないことであるけれども、右のようないわゆる処分禁止の仮処分命令があつた以上その命令前になされた不動産売買を原因として該命令後にその所有権取得登記をなすも、これを以て仮処分債権者に対抗することはできないものと解するを相当とする。何となれば、不動産の処分は、その登記のない限り第三者に対抗し得ないことは民法第百七十七条の規定するところであるから、右のような場合においては同条の適用上仮処分債権者に対しては右不動産売買を以て対抗し得ない結果、たとえ、該売買が仮処分前になされても仮処分債権者に対する関係においては仮処分後における登記のときになされたものと認めざるを得ないのであつて、若し仮処分前になされた処分行為と雖も仮処分後にその対抗要件を具備した以上、爾後仮処分債権者にも有効であるとするならば、それは恰も該処分行為に基く所有権取得を以てその対抗要件の具備なくして第三者に対抗し得ることを是認することとなるからである。従つて、一審参加人は右第二、第三記載の物件については、後に認定するように右仮処分前に一審被告からこれを買受け一審被告との関係においてはその所有権を取得したとしても、前記認定のように、その対抗要件は右仮処分後に具備せられているに過ぎないのであるから、第三者にあたる仮処分債権者の一審原告はその対抗要件の欠缺を主張し仮処分当時における一審参加人の右物件に対する所有権の取得を否認し得るものといわねばならない。前記第一記載の物件についても右と同様の結果を認むべきもののようであるけれども、前顕甲第七号証の一乃至三十四によれば、該物件については昭和二十一年五月二十七日一審参加人のため同年二月二十八日付売買に因る所有権取得の仮登記のなされていることが認められるので、その後同年六月五日になされた本登記の順位は右仮登記の日に遡ることとなる結果、一審参加人は右仮登記のときから右第一記載物件の所有権取得についてその対抗力を有するに至つたこととなるので、右仮登記後になされた前記仮処分の債権者たる一審原告は一審参加人の同物件に対する所有権取得を否認し得ないこと当然である。なお、前記第四記載物件については、前認定のように、既に一審被告から一審参加人に対し所有権移転登記がなされているところ、一審原告のため仮登記や仮処分の存することについてはこれを認め得る証拠がないので、一審原告は一審参加人の同物件に対する所有権の取得を否認し得ず、一審参加人は完全にその所有権を取得したものといわねばならない。

果してしかりとすれば、一審原告の本訴請求中、一審被告に対し(一)別紙目録第二、第三記載物件が一審原告の所有なることの確認を求め、(二)右第二記載物件について昭和十八年八月六日売買に因る所有権移転登記手続とこれが引渡を求め、(三)右第三記載物件について熊本区裁判所昭和二十一年六月十七日受付第二、六九二号を以てなされた昭和十八年八月六日付売買に因る所有権移転の仮登記に対する本登記手続とこれが引渡を求める部分はその理由があるからこれを認容すべきも、その余の部分、すなわち右第一、及び第四記載物件について一審被告に対し一審原告の所有であることの確認を求め且これが所有権移転登記手続とその引渡を求める部分は失当として棄却を免れない。

次に、一審参加人の請求について判断する。

一審参加人が昭和二十一年二月二十八日一審被告から別紙目録第一乃至第四記載物件中一審被告居住の四棟の家屋を除くその余の物件を代金三十六万円で買受け右代金を支払つたことについては当事者間に争がない。一審被告は右家屋四棟は売買契約の目的物件から除外せられていた旨争うけれども、原審における一審被告本人尋問の結果により一審被告名下の印影の成立を認め得るのでその全部につき真正に成立したものと認むべき丙第一号証及び成立に争のない丙第三、第四号証によれば右家屋四棟も右売買契約の目的物件中に包含せられていたものと認めることができるのであつて、該認定に反する原審証人岩竹三郎、中島茂吉の各証言及び当審における一審被告本人尋問の結果は措信し難い。而して、右第二記載物件については昭和二十八年五月二十八日、第三記載物件については同年六月九日、第四記載物件については昭和二十九年九月三日一審被告から一審参加人に対しいずれも右売買に因る所有権移転登記手続が履践せられたこと、なお右第二記載物件中売買当時の公簿面上畑地として表示せられていた土地が現況は悉く宅地となつていたことは既に認定したとおりである。しかしながら、前認定のように、右第二記載物件については昭和二十一年六月三日、第三記載物件については同年六月二十九日いずれも一審原告の申請により一審被告に対するいわゆる処分禁止の仮処分命令の登記がなされている。それで右第二、第三記載物件については、この仮処分命令の登記後に一審参加人のため所有権移転登記がなされたものであるから、一審参加人は既に説明したように右物件の所有権取得を以てその移転登記のなされているに拘らず仮処分債権者たる一審原告には対抗し得ないものといわねばならない。ただ、右第四記載物件についてのみは、一審参加人は完全にその所有権を取得しこれを以て一審原告に対抗し得べきことも亦前記説明のとおりである。

そうだとすれば、一審参加人の一審被告に対する前記第二乃至第四記載物件が一審参加人の所有であることの確認を求め且これが引渡を求める請求は正当として認容すべきものであるが、一審原告に対する確認請求は、右第四記載物件が一審参加人の所有であることの確認を求める部分のみその理由があるのでこれを認容すべきも、その余の右第二、第三記載物件についての確認請求は失当として棄却すべきものである。

又、一審参加人は一審原告に対し右第三記載物件について昭和二十一年六月十七日一審原告のためなされた所有権移転の仮登記の抹消を求めるので按ずるに、一審原告は、この仮登記の抹消請求は控訴審における新なる請求であるから不適法のものとして却下せらるべきであると主張するけれども、右仮登記の抹消請求は第一審以来なされている同一物件に対する所有権の確認請求に附加して控訴審において新に請求せられたものであつて、該確認請求とその請求の基礎を同じくし且この抹消請求の審理のため特に訴訟手続の遅延を来たすものとも認められないので適法のものとして許容せらるべきである。しかし、右仮登記は一審原告のため適法になされたものであることは前記説明のとおりであることは前記説明のとおりであるから、たとえ、一審参加人がその後右第三記載物件について所有権取得の登記を了したとしても、一審原告に対し右仮登記の抹消を求め得ないことは、仮登記制度の目的に徴し論を俟たないところである故、右仮登記の抹消請求はその理由がなく排斥を免れない。なお、一審参加人は前記第四記載物件についても仮登記の抹消を求めているが、同物件については、仮登記のなされていないこと前認定のとおりであるから、同物件に対する仮登記の抹消を求める一審参加人の請求の理由のないことは多言を要しない。

以上のように、一審原告及び一審参加人の一審被告に対する同一物件について同一趣旨の請求を認容することは、当事者参加訴訟たる本件訴訟においては許されないのではないかということが考えられるのであるが、元来、民事訴訟法第七十一条後段の当事者参加訴訟においては、原告の被告に対する訴訟の繋属中に、参加人がその訴訟の目的の全部又は一部が自己の権利なることを主張して右訴訟に参加し原告及び被告に対して請求をなすものであるから、原告の請求と参加人の請求とは互に排斥して両立し得ない結果、その互に排斥する限度においては、これを一請求と同視し一律に決せねばならない。換言すればこれを一個の判決で矛盾なく解決せざるを得ないのである。これを逆にいえば、当事者参加訴訟で原告の請求とを矛盾なく一律に解決しなければならないのは、その両個の請求が互に排斥して両立し得ないものであるからに外ならない。それで、当事者参加訴訟においても、審理の結果、原告の請求と参加人の請求とが互に排斥する関係に立たないことが明白になつたときは必ずしもこれを矛盾なく一律に解決しなければならないものではないと解すべきである。ところで、本件は、一審原告が本訴において別紙目録第一乃至第四記載物件を一審被告から買受けその所有権を取得したとして一審被告に対してこれが所有権の確認とその移転登記及び物件の引渡を求めているところ、一審参加人が右第二乃至第四記載物件は自己が一審被告から買受けその所有権を取得したとして、右訴訟に当事者として参加して一審原告に対してはこれが所有権の確認を求め、一審被告に対してはこれが所有権の確認と物件の引渡を求めているものである。ところが、審理の結果は、前記のように一審被告が一審原告と一審参加人との双方に右物件を売渡したいわゆる不動産の二重売買をしたものであつて、右第二、第三記載物件については第一売買の買主たる一審原告及び第二売買の買主たる一審参加人双方とも売主たる一審被告に対する関係においてはいずれも売買によつて該物件の所有権を取得したことになるが、買主双方の間においては互に相手方に対し自己の所有権取得を対抗し得ない状態にあるので、右物件についての一審原告の請求と一審参加人の請求とは互に排斥する関係には立たないことが明らかになつたのである。さすれば、右第二、第三記載物件に関する限りにおいては、前記の説明に徴し、最早本件においては、一審原告の請求と一審参加人の請求とはこれを矛盾なく一律に解決しなければならないものではないといえるので、当事者参加訴訟として審理せられたに拘らず、一審原告及び一審参加人の一審被告に対する同一趣旨の請求を認容する判決をなすことが是認せられるであろう。

よつて、ここに言渡すべき判決は原判決と一部趣旨を異にするのでこれを変更すべきものとし、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法第八十九条、第九十二条、第九十五条、第九十六条を適用して主文のとおり判決する。(一審参加人は物件の引渡について仮執行の宣言を求むるけれども、これを附するは相当でないと認めその旨の宣言をなさない)

(裁判官 野田三夫 高次三吉 天野清治)

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